2017年御翼6月号その3

                           

いい人生は、最期の5年で決まる―樋野興夫(ひのおきお)医師

 「結局、いい人生だったかどうかは、最期の五年間で決まるのだと思います」と、がん患者とその家族三千人と接し、聖書の世界観から対話してきた樋野興夫医師は言う。樋野先生は、「命より大切なものはない。命が一番大事だ」とは考えない方がいい、と明言する。地上での命が何より大事だと考えてしまうと、死はネガティブなものとなるからである。「自分の命より大切なものがある」と考えた方が、人は幸せな人生を送ることができる、と樋野先生は提起する。そして、自分の癌を人生の優先順位の上の方にはおかず、一日に一時間くらい癌について思い煩ったら、その残りの時間は他のこと、とりわけ他人のために、生きることを考える方がいい、と言う。
 以下は、樋野興夫著『いい人生は、最期の5年で決まる』からの抜粋である。

多くの人は、定年を迎えてから生きがいを見つけようとしますが、それでは遅すぎます。現役時代から本業以外のことをやる習慣を身につけないといけません。仕事をリタイアしても、そこで人生が終わるわけではありません。残された時間をしっかりと生き、最期の五年間を幸福にする心構えをもっていれば、決して寂しい気持ちのまま人生を終えることにはならないはずです。
 私の尊敬する内村鑑三は、若い時には人から非難されたり、職場を追われたりと、苦労の多い人生を送りました。内村鑑三は人間関係のトラブルが多い人で、仕事も定着しませんでした。ところが、最期の5年間は幸せに暮らしています。これは彼がきちんと真実を追求していたからです。他者との妥協はしませんでしたが、間違ったこともしなかった。そこに加齢による柔和さが加わり、しだいに認められていったのです。そして、死去する前の五年間はとても穏やかな生活を送り、幸せにこの世を去りました。
 どんな境遇の人でも後世に残せるのは、内村鑑三のいう「勇ましき高尚なる生涯」です。「勇ましき」とは品性と格調、「高尚」とは気骨(きこつ)(自分の信じることを貫こうとし、容易に人に屈服しない、強い心)としとやかさ、と解釈してください。お金があろうとなかろうと関係ありません。偉業を成し遂げる必要もありません。与えられた人生を一生懸命誠実に生きて、残された人の心に自分の思い出が残ればそれでいいのです。生きている間は目立たなくても、死んでから誰かが思い出してくれれば充分です。
 生きることは楽しいか、楽しくないか。そんなことを私は考えたことがありません。この地上で自分は何をなすべきか。重要なのはそれだけです。生きているうちに、他者が自分をほめようと、けなそうと、そんなことはどうでもいいのです。結局、ただ黙々と生きて行くしかないのです。そんな生き方をしていれば、きっと最期の5年間は輝くものになるでしょう。人間は自分の寿命に気づかない生物ですから、最期の5年間がいつになるかはわかりません。ですから、今日から生き方を変更し、いつ死が訪れても穏やかに受け入れられるような状態を築いておく必要があります。
 自分にしかできないことは、おそらく一つくらいしかありません。それに注力し、あとは放っておく。あなたの役割や使命は、あなたにしか果たせません。いまそれがわからないのなら、悩み、あとは静かに待つ。そういう品性を備えてほしいものです。勝海舟の臨終の言葉は「これでおしまい」でした。最後は「これでおしまい」で死ぬ。それしかありません。

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