2018年御翼1月号その3

                           

全財産が僅か7ドルから幸福な人生へ         

 全財産が僅か7ドルとなったケン・バターフィールド(匿名)は、ホームレスのための施設で過ごしていた。彼が落ちぶれたきっかけは、父親が遺した1千万円の遺産である。そんな大金を手にしたことのなかったケンは、高級バーで飲み歩き、最後には安い居酒屋で金を使い果たした。「もう希望は何も残っていない」と漏らすケンに、ある人が、「ノーマン・ヴィンセント・ピール牧師に会いに行くべきだ」と助言してくれた。ピール牧師に会うと、ケンはこれまでの経歴を短く話し、「私は完全な失敗者だ。一銭の価値もない」と自分をさげすんだ。彼が自分の半生をきちんとまとめて話した様子をみてピール牧師は思った。この人は自分の考えをきちんと組み立てて話す能力を持っている人だと。そこで、「あなたは頭が斬れる人ですね。頭の良い人は、やる気と、助言を聞き入れる謙遜ささえあれば、どんな逆境からも抜け出せます」とピール牧師は言った。それを聞いたケンは、多少は喜んだものの、「自分が持っているものはこれしかないんだ」とポケットから1ドル札を7枚取り出して見せた。それを見てピール牧師が言う。「持ち物がそれだけということはないでしょう。あなたにはその素晴らしい頭脳があります。若さがあります。大学も優秀な成績で卒業したとのことですね。自分が持っているのは7ドルだけとは、どういうことですか」と。
 ケンは自分自身についてずっと前向きに感じるようになった。そして、まだ独身であるが過去に雑貨店の副支店長まで務め将来を有望視されていたが、アルコールを飲みすぎるようになって解雇されたことなど、かつての実績なども語った。彼は何とか前向きに考えようとするが、やはりなぜ父親が残してくれた貴重な遺産を飲みつぶしてしまったのか、と後悔する。ピール牧師は更に励ました。「どれだけ賢い人でも時には馬鹿な過ちを犯しますよ。あなたは自分のどこが愚かだったかを認識する能力があります。そして高い犠牲を払って、お金はどう扱うべきかを学んだのです。将来、もっとお金が入ったときには、より賢く使えるはずです」と。「確かにそうですね。しかし、せめてあんなにまぬけでなければよかったのに」とケンはなおも言う。牧師は語った。「この世で最も無益なことの一つは、『せめて〜でなければよかったのに』という思いですよ。スマイリー・ブラントン博士によると、精神的に病んでいて、そのことから中には肉体的にも病んでしまった患者たちの病の根本原因は、『せめてあんなことをしていなければよかったのに』という思いを捨て切れないでいることだそうです。患者の精神状態が回復するのは、『せめて〜しなければよかったのに』という後悔の念が、『この次はこうしよう』という前向きな思いにとって代えられたときです」と。
 ピール牧師は、ケンが自分の可能性に確信を持ち、積極的な発想が出来るようになるために、毎日最低30回、以下の5つのことを声に出して言うように指導した。

1.私は創造的な変化を遂げる過程にある。
I am in the process of creative change.
2.私は日ごとにあらゆる局面においてより善くなっている。
I am becoming better every day in every way.
3.私は確かに成功への道を歩んでいる。
I am firmly on the success beam.
4.本来の私自身が現われつつある。
My own is coming to me now.
5.神が毎日私を、導き助けておられる。
God is guiding and helping me daily.  

そして牧師は、心ある人から預かっている基金からいくらかの金をケンに渡した。この基金は、本当に金を必要としている状態にある人を助けるためにと、ある信者が教会に預けたものである。その僅かな金を元に、YMCAに宿泊し、「大都会ニューヨークのどこかに、自分のために必ず職があるはずだ」と確信し、職探しをするように牧師は言った。そして、毎日、神さまが導いておられることを感謝しなさい、そうすれば、必ず道が開ける、と助言した。助言どおりに実行したケンは、簡易食堂の給仕人として働き始め、アルコール依存症を克服、やがて給仕人から店長へと昇格し、幸福な人生を取り戻した。ケンはほどなくして、牧師から借りた金を返しに来たという。
Norman V. Peal, The Inspirational Writings  
Norman Vincent Peale, The Power of Positive Thinking (New York: Random House, Inc. 1952)より

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