2018年御翼4月号その4

                           

井上成美の人生観における聖書とキリスト教思想の影響

  日米開戦を終始反対していたのが、井上成美(海軍大将となった最後の軍人)であった。国立音楽大学付属図書館に、横田エベリン助教授による「井上成美の人生観における聖書とキリスト教思想の影響」という論文(英文)がある。それによると、井上さんが通っていた仙台の旧制中学の英語教師のうち、何人かが宣教師だったというのだ。その頃から、井上さんは聖書の教えに触れたと考えられる。井上さんが兵学校の生徒(37期)だったときも、クリスチャンの英語教師がいたという。更にその頃の兵学校では、生徒たちにキリスト教を理解させるため、外部からクリスチャン講師を招いたという。また、ローマ13・1「権威はすべて、神によって立てられている」との御言葉から、軍人にはキリスト教が必要だと、「陸海軍ミッション・クラブ」を1904(明37)年に設立し、武士道に根付いたキリスト教を教える聖書研究会を行う宣教師らも現れた。井上さんの何度かここに出席されたという。
 この論文によると、井上さんが洗礼を受けた記録はなく、礼拝にも出席していなかったとのことであるが、群馬大学の一柳氏の論文「井上成美と聖書」には、井上さんが兵学校の生徒だった頃か、その後か分からないが、若い頃受洗しているとの証言が載っている。戦後の井上さんは公職に就くことがなかった。それは、日本の滅ぼした軍人としての責任を感じ、職につくくらいなら、餓死する方がましだという考えがあったからだという。その一方で、自害するよりも、生きて過去の過ちに対する批判を受けることが、責任の取り方だと考えていた。そして、子どもたちに英語の讃美歌やクリスマス・キャロルを教え、「神はおられ、いつでも守ってくださるから、感謝をもって祈るべきだ」と教えていた。そして、辛いことも、そこに使命があるから、神が与えられたと受け止めるべきだと、ある手紙に記している。更に井上さんは、37期の会報誌(1959年8月28日)に、ノーマン・V・ピール『積極的考え方の力』を紹介し、同誌11月23日号では、ピール牧師の別の本『積極的生活の技術』(Stay Alive All Your Life)を紹介し、「この本によってわたしの人生観は変わり、今、幸福である。心配事があって夜も眠れない人たちにこの本を勧める」と記している。また、井上さんは47期のクリスチャンに、「日本を再建し、すくうためには、霊的に変化しなければならないという、あなたの言葉に強く賛同する。社会党のように、国よりも党を優先し、日本労働組合総評議会や日教組のように、共産主義国家を喜ばそうとする団体は心配である」と手紙を送っている。聖書を、特にキリストの言葉が含まれる福音書を深く読んでいた。ヨハネによる福音書のページには、「イエス様、道であり、真理であり、命」を書き込み、ヨハネ第一の手紙には、「神は愛なり。クリスチャンにとって必要不可欠なものが愛」と書きこまれていた。

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