2018年御翼5月号その3

                          

戦時中から米国を非難した米国人宣教師―― ウォルサー

「アジア諸国に進出した日本は悪いが、その日本を経済封鎖(石油の輸出を停止)し、米国に参戦するよう追いつめた米国の罪は重い。太平洋戦争も、米国が仕掛けたようなものだ」と、戦時中から主張していたのは、戦前、日本にいたアメリカ人宣教師ウォルサー博士である。「もし、中国との争いが大きくなりそうだったら、周りの国々との話し合いで、止めさせるのが最もよい手段であった。それを封じ込めたり、武力をみせて日本を脅したりしたのはいけなかった。だいたい、アメリカにはキリストの精神がない。今からでも遅くはない。早く戦争を止めなければならない。もっとも、ヨーロッパを征服しているドイツと同盟を結ぶ日本も悪い」と、ウォルサーは戦時中から米国人に訴えていた。そして、日本が真珠湾を攻撃すると、ウォルサーはアメリカに強制的に送還される。祖国へ帰る交換船の中で、彼はこう演説した。
一 世界中のクリスチャンは、キリストの精神を十分身につけるため、もっともっと信仰を実行しなければならない。
二 他を責めたり審いたりする権利は神以外にはない。人も国も、互に他を許すと共に、畏れかしこんで、自ら足りないことを反省すべきである。
三 従って、今回の戦争が、真珠湾攻撃をしかけた日本だけが悪いと思ったら大間違いである。
四 武力闘争などというような野蛮極まるものを、キリスト教国と自負しているアメリ力がすること自体、馬鹿馬鹿しいことである。アメリカが勝っても、いつかは他国の武力の前に屈服するかも知れない。その繰り返しは切りがない。
五 我らは暴力に反対し、平和を実現するように、全身全霊を捧げなければならない。
 船中の彼の行動を、米国人新聞記者が本国に誇大に伝えると、ウォルサーをスパイ扱いした記事が、大々的に全米に報道される。そのため米国に帰ったウォルサーは、「日本からのまわし者、日本軍のスパイ」とのレッテルを貼られ、学校はおろか、教会でさえ彼を牧師として雇うことを拒む。定職につけず、スラム街のアパートに住みながら、彼は大学、教会、婦人団体、社会事業団体を回っては、日本人に対する誤解を一掃し、戦争の真の原因を究明するよう講演した。ろくな食事もできず、彼の体は弱る一方だったが、それでも平和運動を続け、広島、長崎に原爆が落とされると、それを許可したトルーマン大統領にウォルサーは以下のような抗議文を送る。
「自分はアメリカ人であることを深く恥じる。自分は全世界をあまねく見廻って、多くの野蛮未開な国を知っているが、鬼畜にひとしい非人道的なことをやって、恥じようともしない米国の原子爆弾ほどひどい例を、未だかつて見たことも聞いたこともない。貴下はクリスチャンであり、又、絶対愛・絶対正直・絶対純潔・絶対無私のいわゆる『四絶対』を標榜するオクスフォード・グループ・ムーブメント(MRAの前身 MRA・道徳再武装運動 一九三〇年代米国のルター派の牧師 F. Buchman が提唱した、道徳による世界的な精神改造運動)の会員であると聞いているが実に驚くべき神冒涜であり、MRAの恥さらしでもある。アメリカ人は、日本を野蛮な好戦国のように前々から考えて来たが、永く日本にいて日本の実情を知っている自分は、日本のよさを知っている。『ハラキリ』で有名な武士道を信奉する日本人は、気前のいい、話せば分かる国民である。もし米国が、日本人の心理をよく理解して、もっとゆとりのある条件で戦争を終わるようにうまく持っていけば、日本も話に乗っただろうに、その方法を講じないで、いきなり原子爆弾などと云う無謀な強圧手段で強引に戦争を終わらせたことは、実に愚かしい、そしてけしからぬことである。大統領に敢えて云うが、貴下及び貴下の支配する米国政府は、神の前に大きな責任を負わなければならない」と。
 アジア救済公認団体(LARA)の活動が始まると、ウォルサーは死に物狂いになって働く。しかし貧困生活のため健康を害したウォルサー博士は、痩せる一方で、一九四九年(昭和24年)夏、61歳という若さで、平和運動のための旅先で急死した。その直接の原因は医者にも分からないが、彼は豊かな国アメリカで、栄養失調のために亡くなったのだ。ウォルサーはイザヤのように、神に立ち返るべきだと訴えた。加藤恭亮『平和の使徒 ウォルサー』(教文館)より
戦時中、日本も原爆の開発には着手しており、開発に成功していたら原爆を落とす側にもなっていたかもしれない。どの国も謙遜に神を畏れ、正義を求めなければ、神の審判を受ける時が来る。

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