2019年御翼2月号その3

                           

英国で「ブーイング」された今上天皇

 天皇陛下の大事な仕事は、「国家と国民のために祈ること」である。その祈りの祭祀(さいし)(神道の儀式)は年間20以上あり、天皇陛下は冷暖房のない宮中三殿で正座をして祈り続けられるという。「神道(シントウ)」の語源は、ヘブル語の「シナンテム」(繰り返し教えなさい―モーセ五書を)であるとユダヤ人が言っていた。鳥居の語源は、アラム語のトラア(門)であり、狛犬の阿吽(あうん)の語源はアーメンである。それが古神道であるが、明治になって絶対主義的天皇制下に国家神道が「国教」となることで、本来の神道とは異なるものとなった。しかし、明治天皇が「日本は神道の国であるが、神道はユダヤ教(旧約聖書の教え)であり、自分は精神的にはクリスチャンである」と言っておられた。昭和天皇は皇太子時代から英国YMCAの会員で、今上天皇もクエーカー教徒のヴァイニング夫人を家庭教師としておられた。これらを考慮すると、天皇は代々、「二心なく」、聖書の神に祈ってきた可能性は大である。
 今上天皇の即位10年目(一九九八年)、天皇として初めてイギリスを訪問されると、かつての日本軍の元捕虜や遺族たちが謝罪と賠償を求めて、両陛下の馬車に向かってブーイング(不満や怒り、非難の声)を浴びせた。しかし、陛下は誠意と慈愛をもって端然と向かい合われたという。先の大戦で心に傷を負った人たちが、まだ癒えない状態でいることに心を痛められ、そのような人たちの気持ちを少しでも和らげることができれば、という思いでおられたのだ。天皇は、憲法により国政へのかかわりが禁じられている。それゆえ、英国でも謝罪はできず、「深い心の痛み」とスピーチなさると、翌日、英国の新聞に、元捕虜が「天皇のスピーチには謝罪がなかった」と訴える記事が載った。しかし、その翌日には、「では、我々の手はきれいなのか?」という別の論調が掲載された。「天皇を非難するな。真の誤りは英国政府にあり」と。そのような変化をもたらしたのは何か。天皇皇后両陛下が動物園などを訪れた時、市民に直に話され、その親しみやすさは驚きをもって迎えられた。これらの出会いがもたらした天皇の純粋で誠実なイメージが、人々の受け止め方を変えたのだった(この訪問を密着取材した英国人ジャーナリスト)。
 二年後(二〇〇〇年)、戦争の傷跡の深いオランダを陛下が訪問されたときも、元捕虜らの抗議が行われた。そんな中、戦没者に祈りをささげられた両陛下の姿が大きな話題となった。およそ一分にもわたって黙祷(もくとう)されたのだ。その様子はオランダ全土に生中継された。少年時代、日本軍の捕虜収容所に入れられて以来、天皇を憎んでいた元捕虜のヤン・デ・ヨング氏は、その様子を知り、「私は戦時中の日本と現在の日本を分けて考えるようになりました。日本は偉大な歴史と深い文化を持つ国なんだと」と語った。
 神と人に仕える天皇皇后両陛下の「清い心」が、世界を変えようとしている。天皇陛下はこう述べられている。「人と人との関係は、国と国との関係を越えて続いていくものと思います」(平成十七年 海外ご訪問に際し)と。


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