2019年御翼8月号その3

                           

柏木哲夫『いのちへのまなざし』(いのちのことば社)より抜粋

 2011年の暮れに仙台と石巻に行ってきました。僧侶と牧師が協力して、震災後のケア「心の相談室」を立ち上げ、私も少しお手伝いをしています。仙台郊外の仮設住宅で夫と子どもさんを亡くした中年の女性にお会いしました。家族と家を失い、仮設でひとり暮らしをしておられる淋しさはいかばかりかと思いました。しかし、その人は、穏やかな表情で「私の運命だと思っています」と言われました。小さな教会の信者さんでした。
 お話をうかがっていて、聖書のみことばを思い浮かべました。「わたしは運ぼう。わたしは背負って、救い出そう」(イザヤ四六・四)。ここには運ぶ神、背負う神、救い出す神が描かれています。神様は何を運び、背負い、救い出されるのでしょうか。それは命だと思います。
 運命は「命を運ぶ」と書きます。神さまはこの女性の命を救い出し、仮設住宅に運び、これからずっと背負い続けてくださることでしょう。「運命だと思う」と言われたその言葉の響きに否定的なニュアンスがなく、むしろ肯定的な雰囲気を感じたのは、彼女の信仰からくる平安がその理由なのかもしれません。
 運命とは運ばれた命です。自分の意思ではなく、それを超えた超自然的な力(神)によって運ばれた命が運命なのです。「私は運ぼう」と神さまは言われます。御心のままに運んでくださることを信じて、委ねる信仰をもちたいものです。

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