2020年御翼2月号その4

         

「アルプスの少女ハイジ」の原作者ヨハンナ・シュピーリ

  「原作では大切な主題となっている宗教的なテーマは、アニメからは周到に排除されています」と早稲田大学教授(ドイツ文学者、昨年出版された「聖書協会共同訳」の翻訳に携った)松永美穂さんは、「アルプスの少女ハイジ」について記している。
  例えば、ハイジが、「神様が私たちの願いをきいてくださらないのは、それは、神様が私たちよりも、もっといいことをご存知だからなのよ」と諭され、同じことを周囲に伝える場面がある。原作者ヨハンナ・シュピーリ(一八二七〜一九〇一 スイスのキリスト教児童文学者)は、ハイジを神の愛と御心を語りかける伝道者役と位置付けているのだ。
 ヨハンナの作品はどれも、「ひたすら神さまを信頼していれば、道が開ける」という彼女の信仰に基づき、光と希望と勇気を与えるものとなっている。ただし、それは押し付けがましく、キリスト教の教理を宣言するような書き方ではない。信者でなくても、また子どもでも受け入れられやすいように、例えば、「神を自然になぞらえていて、皆の上に平等に恵みが降り注ぐ」という書き方をしている。
 アニメでのクライマックスは、ハイジに励まされて足の悪いクララが立つシーンである。しかし、原作第一作目のクライマックスは、過去に放蕩歴があり、神とつながっていないハイジのおじいさんが、ハイジの働きより、再び教会に行き、神と人と和解する場面なのだ。「神様と人間と仲良くすることが、こんなにいい気分だなんて!」とおじいさんは言う。
 ヨハンナにこのような信仰を伝えたのは、牧師の娘であったヨハンナの母親である。母は朝夕、子どもたちに聖書を読んでいたが、ある時、山上の説教の主イエスの言葉、「心の貧しい人々は、幸いである、天の国はその人たちのものである」という箇所を読んだ。すると、5歳のヨハンナが母親に尋ねた。「お母さま、どうしてこころの貧しい人が幸いなのですか?」それは食事中で、ちょうど母はフォークを落とし、それをヨハンナが拾ってあげた時だった。そこで、母はこう教えた。「このフォークは私が落としました。ですから私が拾うべきです。しかし、ヨハンナが、落ちたフォークをすぐに拾ってくれたことは、彼女の優しさです。愛です。『心の貧しい人』というのは、人のために優しい心をもってつくす人のことを言うのです。生きているものは、みな常に何かを求めています。人間が求めるものは、食べ物だけではありません。人の親切を、やさしさを、思いやりを求めています。生命のあるものは、本当は貧しいのです。与えてもらわなければ、生きていけないのです。そのことを知っている人が、心の貧しい人なのです。神なんかいなくてもいいではないか、と考えている人が世の中にはいます。このような人は傲慢な人です。心の貧しさが、分からない人なのです」ヨハンナの母親は、生活の中で、愛をもって子どもたちに、信仰を伝えていった。相手の立場に立って、その人が神との関係を持てるように配慮したのであった。


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