2020年御翼3月号その4

         

「イエスは素晴らしい医者」と語る

 睡眠の世界的科学者・柳沢正史(まさし)医学博士
 かつて睡眠薬というと、脳(中枢神経)の活動を低下させることで、眠りへと導くものであった。脳の活動を落とす睡眠薬は、大量摂取すると血圧や呼吸数などが減り、死に至る。これが睡眠薬で死ぬメカニズムである。ところが、現在市販されている睡眠薬は、相当多く飲まないと致死量には達しないように作られているという。更に1998年、起きている状態を保つ脳内の物質「オレキシン」が発見されると、オレキシンの働きを弱めることによって眠りを促す、新しいタイプの薬も開発され、自然な眠りへと導くことができるようになった。このオレキシンの発見者は、日本人の医学博士・柳沢正史さんであり、柳沢さんはノーベル医学賞候補の一人とも目されている。以下は2019年6月18日NHKラジオ深夜便「明日へのことば」で放送された、医学博士・柳沢正史さん(睡眠の世界的科学者・国際統合睡眠医科学研究機構長)の話である。

 短い時間で効率よく質のいい睡眠を取って、質で量をカバーするにはどうすればいいか」とよく聞かれるんですけど、睡眠に関してこれは不可能だと思っていただいたほうがいいです。睡眠は質も大事ですけど、1日のうちでその人にとって十分な睡眠時間をあらかじめ取っておくという考え方でやっていただいた方がいいです。ヒトの場合ですと、何百万年の霊長類からの進化の歴史の中で、だいたい大人は7時間前後の睡眠が必要なようにわれわれの脳はつくられているので、長い生物学的な歴史を簡単に変えることはできないと思った方がいいと思います。
よく言われることですが、睡眠中は記憶が整理されて、「固定化」と言いますが、覚えているべきことをよりよく覚えられるようになります。記憶にはいろいろな種類があって、知識とか過去の出来事の記憶といった「言葉にできる記憶」と、「言葉にできない記憶」もあります。たとえばスポーツや楽器の演奏といった身体のスキルも、脳から見れば重要な記憶なんです。スキルの記憶も、睡眠をとることによってよくなると言われています。私は趣味でフルートを吹くんですけど、一生懸命練習してもなかなか上手に吹けないのに、一晩寝るとなぜか吹けるようになっている。これは実際に体験しています。「多相性睡眠」「単相性睡眠」という言葉があります。多相性睡眠とは何度も寝たり起きたりすることで、種(しゅ)によって昼間寝ているとか夜寝ているとかはありますが、ほとんどの哺乳動物は多相性睡眠です。イヌやネコは昼も夜も寝たり起きたりしますから、眠りが浅いように見えるわけです。でも実は、それが普通なんです。極端な単相性睡眠を示す人間がむしろ例外。基本的には夜、1回続けて深く長く眠るというのが人間の特徴で、これは“人間だけに与えられた特権”だと思ってください。霊長類ですら、サルの類(たぐ)いですらも、人間ほど深く続けて長く眠ることができない。長く深く続けて眠る能力は、だから大事にしてほしいんですね。

 このように語る柳沢さんはクリスチャンである。柳沢さんは、結婚相手が教会に通っていたことがきっかけで、礼拝に出席し、聖書を読むようになった。最初に読んだのはルカの福音書であった。「まず人間としてのイエスに出会い、彼は、医者としても素晴らしい人物だとわかった。病気を癒すだけでなく、社会的にも復帰させ、最終的には霊的にも癒す。この態度は、まさに、医学部で昔から教えてきた『全人的医療』なのです」と柳沢さんは言う。その後は、イエスを「人間」としてよりも、「神」として意識するようになっていき、やがて洗礼を受ける。科学者は研究するとき、仮説をたて、実験を繰り返すことで仮説を実証しようとする。ところが、自分で描いた仮説は「カワイイ」ので、仮説よりも集めた客観的なデータを優先させることは、一般に難しいと言う。そうであってはならないと謙遜に語れるのも、柳沢さんの信仰ゆえであろう。人の心、体が健全であるための基盤は、霊的な癒し、即ち、魂の救いである。人はイエス様によって罪が赦されるという恵みがあって、初めて平安を得られる。それが心と体の繁栄につながる。


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