2021年御翼12月号その4

 

成功とは、最善を尽くしたと自覚し、満足することで得られる心の平和のことである ―― ジョン・ウッデン監督

 「成功とは、最善を尽くしたと自覚し、満足することで得られる心の平和のことである」と言うのは、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のバスケットボール・チームの元監督ジョン・ウッデン氏である。ウッデン監督は、UCLAのバスケットボール・チームを、一九六七年から一九七三年まで7年連続NCAA(全米大学競技協会)で優勝させ、通算で10年間チャンピオンに輝かせた伝説的な監督である。その間、88試合連続勝利という記録も達成している。ウッデン監督はUCLAバスケットボールの黄金時代を築き、「ウェストウッドの魔術師」「20世紀最高の指導者」とまで称えられた。
 一九一〇年、インディアナ州の農家に生まれたウッデン氏は、幼い頃から、父親に毎日聖書を読んでもらって育ち、結婚後も神と家族と教会生活を大切にしたクリスチャンである。ウッデン氏は、監督の権威と影響力を用いて、①選手たちの人格を磨き、②彼らに建設的なものの考え方と価値観を教え、③模範を示すことを自分の義務としてきた。選手たちが祝福された人生を送る事ができるよう、神から監督という職を任命されたと氏は感じていたのだった。ウッデン監督の教えでいくつか印象的なのは以下のようなものである。
 「過ちを犯すことはある。しかし、自分の過ちを人のせいにするまでは失敗ではない」。
 「過去の過ちは忘れなさい。そして、未来に達成する、より偉大なことに集中しなさい」。
 「愛なしに与えることはできても、与えることなしに愛することはできない」。
 ウッデン氏は「成功」をこう定義する。「成功とは、自分がなれるベストの状態になるために最善を尽くしたと自覚し、満足することによって得られる、心の平和のことである」と。ウッデン監督にとってチームの成績などは試合のために準備してきた努力の副産物に過ぎないのだ。 それは譬えてみれば、靴メーカーのAさんにとって、靴は副産物であって、彼が誇るべき真の製品は、人々が協力して良い靴を造ろうとするチームワークである、という発想である。従って、自分が最善を尽くした時は、既に成功しているのであって、その結果が得点であったり、トロフィーであったり、全米チャンピオン、名声、富であったとしても、それらは副産物に過ぎない。このような教えの下で練習してきた選手たちは、ウッデン監督からバスケットボールの実技よりも人生の生き方そのものを学んだ、と語る。
 UCLA卒業後、プロバスケットの選手となり、殿堂入りしたビル・ワルトン氏は、ウッデン監督についてこう語る。
 「監督がコートで教えてくれたもの、例えば、チームワーク、個人の長所を伸ばすこと、自制心、献身、焦点を合わせること、秩序、リーダーシップ(統率力)などは、どれも実生活において必要なことである。監督はこれらの技術が生活にも応用できることを教えてくれた。監督は単にバスケットボールを教えたのではない。人生そのものを教えてくれたのだ。監督は、非常に簡単な方法で人々からの尊敬を得た。それは、自分自身が手本となるということである。氏はこれまで私が接してきた誰よりも努力し、長く働き、より賢明に考え、より献身的で、忠実で、細かな配慮をし、情熱を持っていた。ウッデン監督は、『私が監督だ、言うことを聞きなさい』などと言う必要は一度もなかった。自分自身であることで、指導権を得たのだった。監督は人生こそ本当の試合だと考え、私たちを試合のためではなく、人生そのもののために鍛え、備えてくださった。子育てが始まり、バスケットボール以外の職業について、初めてそのことに気づいた。監督は、私たちがより良い選手となるためのみならず、より善い人間になるための価値観を教えてくれたのだった」と。


 御翼一覧  HOME