2021年御翼3月号その3

       

日本の社会福祉事業の創始者・渋沢栄一

  渋沢栄一(1840~1931)は、日本資本主義の父とも呼ばれるように、設立に関わった企業は500余に及び、実業家として知られているが、社会事業家として数多くの社会福祉事業にも携わっていた。渋沢は600以上の社会福祉事業団体に関わり、救世軍や日本基督教連盟など、多くのキリスト教団体も支援した。

  日本の社会福祉事業の創始者である渋沢栄一は、『論語と算盤(そろばん)』という談話集を遺している。渋沢は、論語(道徳)と算盤(経済)を結び付けて、理想の社会を説こうとした。「論語というものと算盤は、甚だ不釣り合いで、大変に懸け離れたものであるけれども、富を成す根源は何かと言えば、仁義道徳(じんぎどうとく=人として守るべき正しい道)。論語と算盤という懸け離れたものを一致せしめる事が、非常に重要だ」と記している。

  渋沢は合理的な人であり、「貧民が多くなると、社会的に、経済合理性に合わない」という考え方を持っていた。社会では必ず貧しい人ができる。その貧しい人を放置しておくと、社会全体としてはうまくいかなくなる、ということを渋沢は分かっていた。(明治大学 専任教授 鹿島 茂氏)

  アダム・スミス(18世紀の英国の哲学者、倫理学者、経済学者)が『国富論』を書く前に、『道徳感情論』という本を書いている。その中で、人間の経済活動の根本に必要なのは「共感」だと言っている。例えば、貧しい人がいたら、可哀想だと思う。また治安について言えば、自分が強盗に襲われたら、いやだなあと思う。だからそういうことを人にもしない。自分が貧困に陥ったらいやだなあ、強盗にあったらいやだなあ、と思う感情を共有していることが経済活動の根本なのだ。(明治大学准教授・飯田泰之)共感と相互信頼がないと、経済は発展しない。(国際日本文化研究センター准教授・磯田道史)

 

 英雄たちの選択選「渋沢栄一 知られざる顔~ “論語と算盤” を読み解く」NHKBSプレミアム 2021年2月24日放送 

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