2022年御翼4月号その1

 

「脳力・経済・健康」の三つさえあれば ――― フルート奏者・紫園 香(しおんかおり)さん

  フルート奏者の紫園 香さん(芸大付属高校、芸大、同大学院を各主席で卒業)は、25歳の頃、究極的には神に生かされているということを知り、クリスチャンとなった。洗礼を受けて間もない時に、礼拝でフルートを演奏した。すると、ある婦人に「あなたのフルートは素晴らしいと思うけれども、心が虚しくなる」と言われ、紫園さんは大ショックを受ける。これほど上手になるために努力を重ねてきたのに、なんて失礼なことを言うのだろうと思った。しかし、その婦人はいつも紫園さんを応援し、祈ってくれている人だった。思えば、かつては努力の結果上手になって、誰よりもうまく吹く、というのが紫園さんの目的だった。そういった自分の栄光を求めての演奏には限界があり、聴いた者は慰められない。神に栄光を帰する演奏こそ、人の心に真の慰めや励ましを与えることができると気付かされたのは、ある二つの対照的な演奏からであった。
 一つは、ある有名な米国人のコンサートであった。テクニックが素晴らしく、その人のようになりたいと思ったものの、翌朝には心に何も残っていない。同じ頃、近所の教会で行われた、無名の演奏者による讃美歌のコンサートに行った。紫園さんは、「どれほど上手に吹く人なのか」と傲慢な思いで聴いており、さほど技量のある人ではないと感じる。しかし、なんとなく惹きつけられて最後まで聴いていた。すると、翌日になっても、1週間、2週間たっても、その時のメロディーが心の中に残っていたという。それ以来紫園さんは、神を賛美する祈りと心をもって、フルートを吹くようになった。
 クリスチャンになる前の紫園さんは、三つのことさえあれば安泰な人生を歩めると信じ、それを努力目標としてきた。その三つとは、愛する能力、経済力(普通の生活が守られる経済的基盤)、健康である。ところが、これらが突然あっけなく取り去られ、人生が全く分からなくなった。
一つ目は、人を愛するという能力に、自分がとても欠けた人間だと気付かされたことである。かつて、一生を共にしたいという人がいたが、自分が変わるのが嫌で、相手に変わって欲しかった。愛するということがどういうことなのか分からないまま、共に生きていくことができなくなる。自分で「この人を愛そう」と思った人すら愛せない自分に、紫園さんは愕然として自信を失った。次に、父親の会社の倒産があった。父は、梱包材のプチプチ(一九五七年に米国で発明)を商品開発した人であったが、独立して始めた会社が連鎖倒産する。紫園さんは突然、生まれ育った家を追われることとなった。家、家族の温かい交わり、他の人から受ける社会的信頼など、当然自分のものだと思っていたものが簡単に失われたのだ。更に、病を患い、腹部を20㎝切らなければならない手術をすることとなった。腹筋に20㎝も傷が入れば、フルート奏者としての生命は失われる。しかし、腹筋に傷をつけないで手術をしてくれる医師と出会えて、今でも演奏活動ができている。
 当時は、どうして自分にこんなことばかり起こるのだろうと、人生が分からなくなった。人生の嵐に見舞われたのだ。そんな紫園さんを救ったのは、芸大時代の指導教官が紹介してくれた教会でのフルート教室だった。その恩師から、キリスト品川教会でフルート教室の講師を探していると言われ、経済的にもありがたく、お引き受けした。これがきっかけで聖書を学び始め、自分の人生を導く神の存在に気付かされていった。ある日、詩篇139篇13節「あなたこそ私の内臓を造り母の胎の内で私を組み立てられた方です」という御言葉と出会う。これにより、神のご計画の深さと大きさを感じ、自分がこの世に生まれさせていただき、育てていただけたことは、御手による計画だったのだと示された。生きてきた、生きていると思っていたが、今日も神に生かされている、という思いが迫ってきた。そして、どんなことがあっても大丈夫なのだという安心も持てるようになった。だから、自分の演奏を通して、その喜びと心の平安、生きる希望を感じてほしいと願っておられる。


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