2022年御翼7月号その1

 

沈黙の祈り ―― ケン・シゲマツ牧師

  祈りの本質は、神に願いを叶えさせることではない。私たちが、神の祝福を受けるにふさわしい者となれるように、へりくだることなのだ。もちろん、ピリピ人への手紙四章六節に「何も思い煩わないで、あらゆるばあいに、感謝をもってささげる祈りと願いによって、あなたがたの願い事を神に知っていただきなさい」とあるように、最善を賜ってくださる神への信頼を表わすために、願い事を申し上げることは大切である。しかし、主イエスが、「わたしの願うようにではなく、あなたのみこころのように」(マタイ二六章三九節)と祈られたように、祈りの基本は、御声を聞くことなのだ。すると、聖霊の導きにより、神から新しい発想が与えられ、使命を見出し、「神と人とを愛する」(マタイ二二章三七-四十節)器となるよう、自分を備えることができる。
 そこで、米国のトニー・カンポーロ牧師は、毎朝、起きて活動する前に十五分から三十分、横になったまま心を神に向けるのだという。その間、何も言わずに謙遜な思いになり、主の霊が魂に入る時間とする。否定的な思いが入りそうになると、主イエスの御名(みな)を繰り返し述べる。なぜならば、御名には悪霊を追い出す力があるからである(マタイ七章二二節)。これが彼の力の源であり、祈りの中心である。祈りを、願い事を並べ立てる時間にすれば、きりがなく、そのうち疲れてしまうであろう。祈る前から私たちの必要をご存じである天の父なる神にすべてをお委ねし、御声を聞く時間とすべきなのだ。
 マザー・テレサにある記者が「いつも祈りの中で神に何を言っているのですか」と質問すると、マザーは「私は何も言いません。じっと神の声を聞くのです」と答えた。記者は、「では、神は何と言われますか」と聞き返すと、マザーは「神は何も言われません。じっと私の声を聞いておられます。この意味が分からなければ、これ以上説明できません」と言ったという。祈りの中で心を神に向けた時、聖霊が魂に降(くだ)り、聖霊で満たされた魂は私たちの心奥深いところに、神の御声を語りかける。そして人は自分の心で、御声に従う決意をする。マザーは、この祈りの本質を述べたの だった。

沈黙の祈り ケン・シゲマツ『忙しい人を支える賢者の生活リズム』(いのちのことば社)より
 神との関係が深まると、言葉は絶対的なものではなくなります。祈りは、愛のようなものです。「初めは言葉が注がれます」とカルロ・カレットは言います。「それから、私たちはもっと沈黙するようになり、ひと言か、全く言葉にできなくても、愛があればそれで十分です。このように言葉が不必要となる時が来ます。……渇きと苦難を経験している時には、私たちが神に向くだけで魂が会話をしてくれます。」私たちの最も深い祈りは、言葉を超えます。聖霊はうめきを通して、言葉では言い表せない深いことを祈ります(ローマ 八・二六-二七)。言葉で祈るのがむずかしいときや不可能なとき、私たちは神の御前で沈黙のままいることができます。聖霊が私たちの内で祈ってくれ、神との関係を深めていると信頼することです。
 神との関係が成長すれば、私たちも言葉を使うことなく、祈ることが可能です。神の霊の存在を敏感に感じ取ることができれば、このような親しい関係をただ楽しむことができます。行いとしての祈りを体験する代わりに、神を享受することができます。祈りを囗に出すことが祈りの妨げになる時があるかもしれないと、ベイジル・ペニントンは言いました。神の御前で沈黙を守ることが、最も適した状態である場合があります。詩篇の作者も、そのことを肯定しています。「やめよ。わたしこそ神であることを知れ。」(詩 四六・一○)
 神は、すべての所に存在しておられます。神の霊は、イエスに従う私たちの内に住んでおられることを私たちは知っています。つまり、祈りの目的は神を探し求めるというよりも、神のご臨在を認識できるよう私たちの意識を高めることにあります。祈りによって、私たちはすでに持っているものを発見します。現在自分が置かれている地点からスタートして、すでに持っているものを深めていき、すでにそこに達していることを私たちは悟ります。キリストにあって、すでにすべてのものは私たちに与えられています。必要なのはただ、私たちがすでに持っているということを経験するだけです。

 キリストにあって「すべてが与えられている」とは、本来為すべきことのためであれば、必要なものはすべて既に与えられている、という意味である。自己中心的な欲求を満たすためではなく、神と人とを愛するという使命を果たすためならば、体験も経済的な必要もすべて備えられている、備えられる、という意味なのだ。マザー・テレサは、「愛の業に必要なものはただ一つ、傷ついた心である」と言った。苦難に遭った体験すらも、他人に対して愛の業を行うために用いられるのだ。


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