2012年12月16日 望みの錨

・・・最大遺物は何であるか。私が考へて見ますに人間が後世にのこす事の出来る、サウして是は誰にも出来るところの遺物で利益ばかりあつて害のない遺物がある。
 何であるかならば勇ましい高尚なる生涯だと思ひます。是が本当の遺物ではないかと思ふ。他の遺物は誰にものこす事の出来る遺物ではないと思ひます。
 而(しか)して高尚なる勇ましい生涯とは何であるかといふと、私がこゝで申す迄もなく、諸君も我々も前から承知して居る生涯であります。
 即ち此世の中は是は決して悪魔が支配する世の中にあらずして、神の世の中であると云ふ事を信ずる事である。失望の世の中にあらずして、望みの世の中であることを信ずる事である。・・・此世の中は悲みの世の中でなくして、喜びの世の中であるといふことを我々の生涯に実行して其生涯を世の中の贈物として此世を去るといふことであります。 
 1897(明治30)年7月 内村鑑三『後世への最大遺物』より

バックナンバーはこちら HOME