2013年3月31日 望みの錨

 あの出来事がなければ、ベーさんは今夜もヨーロッパのどこかの劇場でスポットライトを浴びながら、オペラファンから熱狂的な喝采を浴びていたことでしょう。
 しかし彼にはきっと、本人でさえ気付かない別の役目があったのではないでしょうか。私達の存在を遥かに超えた大いなるものが、私達を等しく愛してくれていることや、だから「人生捨てたもんじゃないよ」というメッセージを人々の心に伝えること。その仕事をするためには、あの試練を通らなければならなかった。
 あの試練を経た彼の歌だからこそできること。その仕事をさせるために、神様は彼を選ばれたのであり、同時にそのために必要なすべてを与えてくださった……。私にはどうしてもそう思えてならないのです。
 彼は声を「失った」のではなく「新しくされたのだ」と。だから彼の本当の仕事は、まさに今始まったのだと思うのです。人間の目には辛く苦しいことにしか見えなかったものに、なんという秘密が隠されていたことでしょうか。まさに「奇跡」。ベーさんのお蔭で、私は生きている間にこんなに美しい不思議を体験できました。
              輪嶋東太郎(音楽プロデューサー)

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