2014年9月21日 望みの錨

富の定義   「富と徳」(明治36年)内村鑑三全集11より

 富の定義、徳の定義を一通り陳(の)べて置くの必要があります、第一に富は金銭(かね)ではありません。富は金なりと合点(がてん)して居る世の俗人から観ますれば幾万の貨幣(かね)を所有(もつ)て居る人は洵(まこと)に羨(うらや)むべき分限者(ぶんげんしゃ=上下・尊卑の区別などによって定まる身分)であります、則(すなわ)ち円銭厘(えんせんりん)は富を測る唯一の標準になつて居るのでありますが、
 併(しか)しこれは正鵠(まとを)外れた俗見たるに過ぎません、金銭(かね)の無い所にも富は有ります、富そのものが必ず金銭(かね)に伴ふものとは限りません、世には金持ちの貧乏人が沢山生活して居ることを私共は知て居ります。
 経済学者に倣(なら)うて富の定義を下して見ますれば富は使用し得る力であります、即ち富は力(フォース)の代表者であります、一円札と雖(いえど)もたゞの紙片ではありません、これは労働の代表即ち一種の力(ちから)が紙の姿を取って現れ出たものであります、
 今富なるものを分析して見ると力(ちから)と使用者との二つに分れますが、この二つなしには富は決して生じて来るものではありません、力なくんば富がないと同時に使用者其人を得ずんば富は有て毫(ごう=ごくわずかなもの)も其効(そのかひ)なきものであります、此の二者(ふたつ)が具(そな)はらない間は何時(いつ)まで経(た)つても富の好結果を見ることは出来ません、

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