2016年5月29日 望みの錨

 

 「ロックンロールは、ゴスペルから派生したものなんだ」とエルヴィス・プレスリーは語った。1960年代半ば、ビートルズや他のロックバンドによって、ハードロック、パンクロック、ヘヴィメタなど、ロックンロールを起源とする様々なロックが発展してきた頃のことである。
 ゴスペル音楽とは、黒人霊歌から派生した宗教歌で、神から受けた恵みを感謝し、神のことばを伝えたいという思いが歌となったものである。ゴスペル音楽を元にエルヴィスはロックンロールを生み出し、完成させた(1950年代半ば〜60年頃)。そのテーマは、十代の子たちが体験し、感じる喜びや悲しみ、憂い、信頼、愛といったものである。そこには、思想や背信的な要素はなく、聖書の神を否定するものもない。一方、ハードロック、パンクロック、ヘヴィメタなどのロックには、社会風刺や思想が含まれており、特にヘヴィメタの歌詞の内容は、邪悪、暗黒、憎悪といったもので、悪魔崇拝やオカルト、猟奇的な犯罪、麻薬についてなど、退廃的で過激な歌詞も用いられる。だから、1972年のインタビューで、「ロックンロールの王様と言われているあなたが、なぜハードロックを歌わないのですか」と尋ねられたエルヴィスは、「ロックには、皆にとって良いものが少なくて、歌う気にならないんだ」と静かに答えていた。
 聖書の内容は、ゴスペル(福音=キリストの贖(あがな)い)が中心である〈「神は、その独り子をお与えになったほどに、世を愛された。独り子を信じる者が一人も滅びないで、永遠の命を得るためである」(ヨハネ3:16)〉。しかし、旧約聖書の雅歌は、人間の男女の愛のすばらしさを語っており、それはまた、キリストと教会の愛の関係も表す。詩編には、人生の喜び、悲しみ、恐れ、失望、落胆、迷い、疑いといった様々な経験が赤裸々に描かれている。それらは、神の民のありのままの姿であり、それゆえ、詩編は聖書中、最も愛読されている書となっている。
 エルヴィスは、ゴスペルのみならず、人の様々な思いや経験を、ロックンロールやカントリー、バラードで歌った。ゴスペル(讃美歌)と世俗歌の両方を歌ってきたことが、エルヴィスが世界で最も愛されるエンタテイナーとなった理由の一つであろう。イエス・キリストを王としながら、神の前における私たち人間の、ごく自然な姿を歌い、人生を豊かにしてくれるからである。
 トラクト「エルヴィス・プレスリーの真実」の英語版      
‘The Truth of Elvis Presley’発行によせて(執筆:佐藤 順)

                                            

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