2018年5月27日 望みの錨

異文化におけるキリスト教宣教の一つのあり方

 内村の宣教師嫌いは有名である。而(しか)して、中には彼の敬愛する宣教師もわずかにいて、エステラ・フィンチ(Estella Finch―日本帰化名・星田光代)はその一人であった。内村がフィンチと共鳴しあっていた要素は、以下である。
(1) 超教派独立伝道
内村が宣教師を嫌う最大の理由は、彼らが「大抵はキリストの基督教の宣教師ではなくして、或る教会即ち教派の宣教師である」ことである。内村は、フィンチがどこの教派にも依存しない独立宣教師であることを高く評価していた。フィンチの独立の人生は、アジア伝道のために24歳でかの大富豪カーネギー(アンドリュー・カーネギーであったかどうかは証拠不足で疑わしいと、Evelyn G. Yokota氏は疑義を呈している)との養子関係を断ち切ったことから始まる。もしも彼女がカーネギーの養女として日本で伝道活動を続けていたら、彼女も内村の嫌う宣教師の一人にすぎなかったであろう。内村は、「米国人より金銭を受くるの害」(1924)の中で、「米国に有るものは金である。金を除いて米国に有るものは殆ど無い」と言って、米国の金銭崇拝主義を非難している。
(2) 日本への献身
内村がフィンチに魅了されたもう一つの原因に、日本人以上に抱いているフィンチの日本に対する愛国心に感銘したことが挙げられる。彼女の愛国心は一つには、彼女の日本語習得に費やした並々ならぬ努力に顕れている。また、フィンチの愛国心は明治天皇に対する敬意としても表われている。フィンチは、新聞に皇族の写真が載ったものがあると、それを全部切り抜いて自分の祈りの部屋に貼った。そこで皇族のためにお祈りもしていた。明治天皇の御聖徳に感激されて、「素晴らしいエムペラーである」と、非常に傾倒し、それで明治天皇の時に帰化した。
「凡ての人、上にある権威に服(したが)ふべし、そは神によらぬ権威はなく、あらゆる権威は神によりて立てらる、此故に権威にさからふ者は神の定に悖(もと)るなり」(ロマ書13・1,2)との聖書の言葉に基づき、「君主国として日本は聖書に照らして理想的国家である」と言っていた。
(3) 伝道方法
フィンチの伝道方法もまた、内村が彼女に共鳴した原因の一つとして挙げることができる。彼女は決して宣教大会や伝道集会のように大人数を集めて行なうのではなく、一人一人を大切にする少人数方式の極めて日本人に合った方式を採用していた。フィンチの伝道は極めて地味で、一人の魂を重んじて愛と祈?をもって教え導いた。近くにいるときは親しく交わり、遠く離れれば手紙によって励ましを与えた。彼女の伝道方法は大勢の人を浅く広く教えるのではなく、ごく少数の人を深く教え、深くその魂を愛する方法だった。清い軍人を理想とし、彼らをあらゆる誘惑から救おうとして、絶えず祈り、愛をもって彼らを信仰に導いた。
田中浩司「内村鑑三と理想的宣教師 Estella Finch―異文化におけるキリスト教宣教
の一つのあり方―」(防衛大学校紀要)より

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