2022年御翼11月号 号外

 

解説 佐藤 優『人生、何を成したかよりどう生きるか 内村鑑三
(文響社)より

  後世へ遺すのに、一番大切なもの、それはお金です。子どもに遺産を遺すだけでなく、社会に遺すということです。しかし、そういうことをキリスト教徒に言うと、お金を遺すというのは、非常にくだらないことだと言われてしまいます。お金を遺すという考えをいやしいという人は、その人自身がいやしい人だと思います。お金が必要であることは、みなさんも十分に実感されているだろうと思います。お金などいつでも手に入れられるというのは、よくある考えですが、実際お金が必要になってから、手に入れようとするのは非常に難しいものです。財産を築くということは、神様の力を借りるくらいのことがなければ、並大抵の思いや努力ではできないことなのです。
 今日の問題は社会問題であろうと、教会問題であろうと、青年問題であろうと、教育問題であろうと、究極的にはお金の問題です。それなのに、お金が不要などと言うことはできません。財産を後世に遺そうという志を持っているなら、その志に従って、神が与えてくれた方法によって、子孫にたくさんお金を遺してほしいと、私は切実に願っています。
しかし、内村鑑三はその著書『後世への最大遺物』の中で、「金、事業、思想 これらは大切であるが、最大の遺物とは言えない」と言う。以下は、『後世への最大遺物』からの引用である。

『後世への最大遺物』―― 内村鑑三  口語にして要約
それならば最大遺物とはなんであるか。それは…勇ましい高尚なる生涯であると思う。高尚なる勇ましい生涯とは何であるかとは、この世の中はこれはけっして悪魔が支配する世の中にあらずして、神が支配する世の中であるということを信じることである。失望の世の中にあらずして、希望の世の中であることを信じることである。この世の中は悲嘆の世の中でなくして、歓喜の世の中であるという考えをわれわれの生涯に実行して、その生涯を世の中への贈物としてこの世を去るということである。その遺物は誰にも遺すことのできる遺物ではないかと思う。 

 この世に流されず、神の国とその義とを求める生き方を示すことが、後世への最大の遺物なのだ。そして内村鑑三は、「神の国とその義を求めるならば、私たちは飛行機に乗って空を飛ぶように、障害の多いこの地の上を、滑らかに走ることができるのだ(神の国と其義とを求めて我等は飛行機に乗って空中を駛(はし)るが如く、障害多き此地の上を滑らかに走り得るのである。)」と記している。この「神の国とその義」(明治44年9月10日)が書かれた五か月前の明治44年4月、埼玉県・所沢に日本初の飛行場が開設されている。当時はフランス、ドイツ、米国製の複葉機や単葉機が飛んでいたが、内村はできたばかりの飛行場でこれらを見て書いたのかもしれない。
御翼2022年11月号 号外より


 御翼一覧  HOME